高級時計の販売員に欠かせない
“時計のメカニズム・修理”の
基礎知識
このサイトは株式会社東邦時計ホールディングスをスポンサーとして、Zenken株式会社が運営をしています。
高級時計のメカニズムや修理の知識は、お客様が安心して時計を愛用し続けるための「信頼の証」です。
その専門性こそが、これからの時代に選ばれる販売員の大きな強みとなるでしょう。
このページでは、当サイトのスポンサーでもある東邦時計ホールディングス株式会社で、ロレックスのアフターサービスを担当するサービスアドバイザーさんにもコメントをもらいながら、高級時計の構造や故障対応の基礎知識を紹介していきます。高級時計好きを仕事にしたい方や高級時計店でキャリアアップしたい方必見です。
高級時計のメカニズムを知る:機械式とクォーツの違い
ここでは、高級時計のメカニズムを解説します。
機械式時計とクォーツ時計の構造にどのような違いがあるのかも知っておきましょう。
機械式時計の基本構造
ゼンマイと歯車の連動
機械式時計は、リューズ(時刻合わせやゼンマイ巻きに使う、時計側面の突起部分)によって巻き上げられたゼンマイがほどけていく力を動力とし、歯車を連動させて時を刻む仕組みです。
ゼンマイの力は香箱車に伝わり、二番車・三番車・四番車へと順に回転が伝わっていきます。ゼンマイのほどける速さを制御するのが、ガンギ車とアンクルで構成された脱進機と、調速機であるテンプです。
アンクルがガンギ車を断続的に動かすことで、ゼンマイの力を一定のリズムでテンプへ伝えつつ、歯車の回転速度を制御し、正確に時を刻みます。

機械式時計の特徴
機械式時計は動力源がゼンマイであるため、電池不要である点が特徴です。電池交換を行う必要はありませんが、お客様には定期的なゼンマイ巻きを習慣づけていただくとよいでしょう。
また、内部の潤滑油は時間が経つと劣化します。3~5年ごとの定期的なメンテナンスも必要です。このようなメンテナンスを必要とするからこそ、単なる時間を知る道具以上の特別な存在となり、深い愛着が湧くのかもしれません。
滑らかに動く針の美しさ、耳に優しい「カチカチ」という音。そのアナログならではの温もりが、多くのファンを惹きつけているのです。
ロレックス・アドバイザーが考える機械式時計の魅力

株式会社
Tさん(ロレックス・
サービスアドバイザー)
「高級機械式時計のムーブメントは、まさに“小宇宙”。見えない部分の部品まで驚くほど綺麗に仕上げられているんです。高い技術で組み立てられた世界に、専用の特別な工具で触れるたびにワクワクします。」
クォーツ時計の基本構造
水晶振動子と電池の役割
クォーツ腕時計は、クォーツと呼ばれる水晶振動子の一定振動を電気的に制御し、正確に時を刻むという仕組みです。
アナログクォーツは、電池、IC回路、水晶振動子、モーター、複数の歯車で構成されており、電池からのエネルギーで水晶振動子を発振。高精度な周波数の振動を、ICが1秒に1回の周波数に変換します。その電気信号を使用してモーターを動かし、正確な時を刻めるようにしています。
デジタルの場合はモーターや歯車を用いず、分周回路で得た信号によって液晶ディスプレイを制御し、数字で時刻を表示します。

(https://www.jcwa.or.jp/time/tech/tech09.html)
クォーツ時計の特徴
クォーツ時計は非常に高い精度を誇り、精度は月差±20秒と言われています。
また、日常的な調整の必要がない点もポイント。定期的なメンテナンスは、7~8年に一度の割合でよいでしょう。
構造は、機械式と比べてシンプルです。しかし、内部の電子回路に不具合が生じると修理が困難なケースもあります。
回路不良による交換ができない場合もあるため、その点には十分な理解が必要です。
時計の主要パーツと基礎知識
時計の構造を知っておくことで、アフターサービスや時計選びのご提案の際にも役立ちます。
ここでは、代表的なパーツとその働きについてご紹介します。
ムーブメント(機械本体)
機械式ムーブメントとクォーツムーブメントの違い
ムーブメントは時計の「心臓部」ともいえる存在で、時計の精度や信頼性を左右します。
機械式ムーブメントの場合、動力源はゼンマイ。細かなパーツで構成されており、巻き上げ方式は「手巻き」と「自動巻き」の2種類があります。
クォーツムーブメントは電池を動力源とし、水晶振動子とICによってモーターを制御します。アナログ表示とデジタル表示の両タイプがあります。
ケース・ブレスレット
ケース素材の違いと耐久性
ケースには次のような素材が使用されます。
- ステンレススティール
- ゴールド
- プラチナ
- カーボン
- セラミックス
- チタン
ステンレススティールは、最も一般的なケース素材*です。硬度が高く、耐食性にも優れています。
*FH 2023 年次報告書によると、ステンレススティールは、スイス時計輸出において、本数で過半数を占めると報告されています。
参照元:スイス時計協会(FH)『World Watchmaking Industry in 2023』年次報告書[PDF](https://www.fhs.swiss/file/59/Horlogerie_mondiale_2023_en.pdf)
シルバーやゴールド、プラチナは上質で高級感がありますが、特に純度の高い18Kゴールドやプラチナはステンレススティールに比べて柔らかく傷がつきやすいため、取り扱いに注意が必要です。
カーボンやセラミックスは傷がつきにくい素材です。特に、セラミックスは金属よりも軽く、非常に高い硬度を持っており、変色しにくい点が魅力だと言えるでしょう。
このように、高級腕時計のケース素材はさまざまです。各素材の特徴を正しく理解し、お客様のライフスタイルに合ったご提案ができるよう心がけましょう。
ブレスレットの構造と調整方法

ブレスレットは「コマ」と呼ばれる小さなパーツを連結して構成されています。各コマをピンやビスなどでつなぎ合わせ、隣り合うコマを半分ほどずらすことで長く連結しています。
ブレスレットの連結にもいくつか方法があり、それぞれ調整方法も異なります。代表的な連結タイプと調整方法は以下の通りです。
- ピン式:ピンを抜き差ししてコマを外すことで調整
- ネジ式:ドライバーでネジを外してコマを抜いて調整
- スライド式:バックルや留め具を動かして微調整が可能
お客様の腕にしっかりとフィットするよう、丁寧なご案内を心がけましょう。
風防(ガラス)と防水性能
風防(ガラス)の素材それぞれの特徴
風防(ガラス)には次のような素材があります。
- サファイアクリスタルガラス
- ミネラルガラス
- アクリルガラス
サファイアクリスタルガラスは、高級時計に多く使われているガラスです。サファイアと同等の硬度を持ち、傷がつきにくい点が特徴。美しい輝きを保てるため人気がありますが、その分コストがかかります。
ミネラルガラスは、コストがかからず加工もしやすい素材であることから、カジュアルな時計に多く採用されています。
アクリルガラスは、3つの中では最も軽量で加工しやすいガラス。傷がついても磨いて落とせるという特徴があります。
防水性能表記の見方と注意点
腕時計の防水性能を確認する際は、文字盤や裏ぶたに刻印された防水表示(例:WATER RESIST 10 BAR)を見ましょう。この表示は防水性能の目安であり、実際の耐水性は使用状況や経年で変化するため、定期点検が重要です。
- 3気圧防水「WATER RESIST」
汗や洗顔の水滴、軽い雨程度には対応できますが、水仕事や多量の汗、屋外作業など水に触れる環境では使用を避けてください。防水というより「防滴」レベルと考え、雨天やスポーツでも非推奨です。できるだけ水に触れないようご案内しましょう。 - 10気圧防水(日常生活強化防水)
洗車や水仕事、水泳、軽度のマリンスポーツに対応可能です。 ただし、潜水には非対応で、温泉やサウナでの使用もパッキン劣化の恐れがあるため避けるようご案内してください。
どのモデルも、精密機械であることに変わりはありません。
防水性能があっても、時計を大切に扱っていただけるよう、お客様へ丁寧にご説明ください。
高級時計に見られる主なトラブルとその対応方法
高級時計に見られる代表的なトラブルと、その対応方法についてまとめました。
お客様に安心してご愛用いただけるよう、正しい知識を身につけておきましょう。
作動しない・時間が遅れる(早まる)
機械式の場合
機械式時計が動作を停止した場合、ゼンマイの巻き不足やゼンマイ切れが考えられるでしょう。リューズを20~30回ゆっくり巻いた上で、まだ不具合が起きる場合は、内部の油切れや歯車の摩耗が原因かもしれません。定期的なメンテナンスの重要性をお客様にご案内しましょう。
また、時間の遅れや進みが見られる場合は、磁気帯びによる影響が考えられます。磁気チェック器で磁気帯びを確認し、帯磁があれば脱磁処置又はメーカー対応をご案内します。
クォーツの場合
クォーツ時計が作動しなくなる原因は、主に電池切れです。数年使用した上で作動が停止した際には、電池交換をご案内しましょう。電池を交換しても作動しない場合、IC回路やコイル不良が考えられ、ムーブメント交換を含むメーカー対応が必要になることがあります。
また、時刻の進みや遅れが見られる場合、電池電圧の低下や急激な温度変化が一時的な原因となることもあります。電池交換後も大きなズレが続くようであれば、IC回路の不良が原因と考えられるため、こちらもメーカーでの適切な対応が必要です。
ガラスの破損・外装の傷
風防交換が必要になる場合
衝撃や落下などで風防(ガラス)が割れることがあります。破損が確認された場合は、すぐに時計の使用を中止していただくよう、お客様にご案内ください。
ガラス交換時には、ムーブメント洗浄やパッキン交換が行われるケースも多く、追加費用が発生する場合があるので、あらかじめお客様に丁寧にご説明しましょう。
ケースやブレスの傷・研磨
ケースやブレスレットにできた細かな傷やくもりを目立たなくし、光沢を蘇らせるには、専門的な研磨仕上げが有効です。ただし、チタンやセラミックなど、一部の素材は磨き加工に適さない場合もあるため、事前の確認が必要です。
研磨仕上げは繊細な作業であり、高度な技術力や豊富な経験が必要です。それゆえ、専門の技術者による作業が必要な場合もあります。
日付や曜日がうまく切り替わらない
カレンダー機構の歯車の不具合
カレンダー(日付や曜日)がうまく切り替わらない場合、特定の時間帯での手動操作により、歯車に過度な負荷がかかった可能性があります。
多くの機械式時計では、午後9時〜午前3時の間は時計自身が自動でカレンダーを切り替える時間帯にあたります。この時間帯に手動で変更すると、内部パーツの破損につながるおそれがあるため、お客様へその点を丁寧にご案内しましょう。
修理や定期的なメンテナンスの流れ

ここでは、時計の修理や定期的なメンテナンスにおける基本的な対応フローをまとめました。一連の流れを知っておくことで、修理費用やお渡しできる時期、アフターサービスの案内など、正しい情報をお客様にお知らせできます。
修理受付からメーカーへの依頼まで
修理見積もりの取り方・お客様への説明ポイント
時計の状態やご使用状況を丁寧にヒアリングし、外装の傷や動作状況を確認します。その後、必要に応じてメーカーへ送付します。
専門技術者が細かく点検し、必要な修理作業や定期的なメンテナンス、部品交換があるかを確認した上で、見積もりが作成されます。費用や内容にご納得いただけた場合のみ、正式に作業へ進みます。お客様が安心してお任せいただけるよう、丁寧なご説明を心がけましょう。
外注時のやりとりと納期管理
修理やオーバーホールにかかる時間は、通常2週間から1ヶ月程度と言われています。ただし、時計の状態やメーカーの混雑状況、修理内容などによってさらに時間を要する場合もあります。
とくに、部品取り寄せが必要な場合、3~6ヶ月あるいはそれ以上かかるケースも。例えば、ヴィンテージ時計や限定モデル、生産終了モデルの腕時計などの部品が当てはまるでしょう。納期に影響が出る場合は、忘れずにお客様にお知らせしてください。
納品チェック&お客様への引き渡し
動作チェック・外観チェックの重要性
修理やオーバーホールを終えた時計は、最終的な検品工程を経て、機能や精度、外観などに問題がないか確認されます。防水性能を確認する防水検査など、細かく品質検査を実施。秒針の動きや時刻合わせなど、最後の動作チェックを経て完了です。
動作チェックを終えてから、安心してお客様へお渡しできる状態となります。
アフターサービスのご案内
時計をお客様にお渡しする際には、今回の対応内容(修理・オーバーホールの有無や内容)や、次回のメンテナンス時期の目安をご案内しましょう。あわせて、磁気や衝撃を避ける、こまめなクリーニングを心がける、など、日常での取り扱いポイントも丁寧にお伝えすると、より安心してご使用いただけます。
メカニズムを知ることのメリット
-お客様に時計を長く愛用していただくために-
日常的なメンテナンスの重要性を伝えられる
時計のメカニズムを知ることで、普段のメンテナンスの重要性を、自信を持ってお客様に伝えられるでしょう。
例えば、機械式時計であれば定期的なゼンマイ巻きや着用による駆動、クォーツ式であれば電池切れのサインに注意することが大切です。防水ウォッチでも、定期的にパッキンの劣化チェックが必要であることなどを日頃から意識して実践していただくことで、大切な時計を長く使い続けていただけます。
必要以上の修理費用を防ぐことにもなる
お客様に定期的なメンテナンスの重要性を意識していただくことは、修理費用を抑えることにもつながります。
高級時計は使い込むほどに持ち主だけの“味”が出てくるのは確かです。その一方で、見えない内部では潤滑油の劣化やパーツの摩耗が少しずつ進行します。これを放置してしまうと、最終的には高額なパーツ交換やムーブメント交換で修理費用がかえって高額になってしまうかもしれません。
だからこそ、定期的なメンテナンスで早期発見・早期修理を実現し、大掛かりな故障を未然に防ぐことの大切さをしっかりと伝えましょう。
時計好き&メカ好きのお客様に深い愛着を持ってもらえる
時計のメカニズムや仕組みをお客様にも知ってもらえれば、さらに時計への愛着を持ってもらえるようになるでしょう。同時に、お客様のコレクション欲も高まるかもしれません。
高級時計店の販売員にとっても、時計の構造とアフターサービス内容を知ることは多くのメリットをもたらします。提案内容の説得力がアップするので、お客様からの信頼度も高まります。深い信頼関係を築くことができ、仕事へのやりがいもより向上するでしょう。
ロレックス・アドバイザーより補足

株式会社
Tさん(ロレックス・
サービスアドバイザー)
「前職で様々な時計に触れましたが、高級時計の内部は全くの別物。見えない部品まで美しく、まさに芸術品です。私も、この世界に深く携わりたいと思い転職した一人です。この感動の背景にある技術や想いをお客様と共有できるのが、大きなやりがいだと感じています。」
専門性を高め、さらなるステップアップを
機械式時計とクォーツ時計、メカニズムは異なります。それぞれの特徴を把握しておけば、定期的なメンテナンスの重要性も納得感高く伝えられ、故障した際に適切な修理対応も行えるようになるため、販売員としてのステップアップも期待できます。

株式会社
Tさん
(ロレックス・
サービスアドバイザー)
「ブランド独自の高度な研修で常に新しい技術を学べる環境は本当に魅力的です。昨日できなかった調整がスムーズにできるようになった時など、日々自分の成長を実感できるのが嬉しいですね。それが自信にも繋がります。」
お客様にとって高級時計は、自分へのご褒美に、大切な人への贈り物に、など、特別な想いが込められたアイテムです。お客様に寄り添った提案ができれば、その腕時計は、きっとお客様のかけがえのないパートナーになるはずです。
お客様の大切な思い出を未来へつなぐため、正しい知識を身につけてサポートしていきましょう。高級時計店で主軸となるウォッチコーディネーターやサービスアドバイザーという職業についてさらに知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。